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「最近、アウトが可愛い……」
「ナニソレ、今それを言うって事は僕に聞いて欲しいってことかい?」
その日、僕は教会の蔵書室の中で隠れて酒を呑んでいた。ここは普段ならめったに誰も来ない場所なのだが、何故か今日は人が来た。否、人が“わざわざ”やって来た。
ウィズ。
僕のマナの宿主でもあり、その身に一世界分のマナを有する、神様みたいなお気に入りの子の――
馬鹿で愚かで、狭量な恋人だ。
「可愛すぎる上に、最近の発情期の多さ……俺は全て絞り取られてしまいそうだ。最高じゃないか……世界にはこんな幸福があったのか……素晴らしい」
「聞いてないね。僕の言葉なんて聞いちゃいないね?」
酒を呑んでいるのがバレたら、ジクジクと嫌味を言われ、蔵書室の中から叩き出されると思っていたが、どうやらそんなつもりはないらしい。その顔を見てみれば、酒を呑んでいる僕よりも、高揚して蕩け切っている。今、僕の酒をこいつに押し付けて、誰かを大声で呼びでもしたら、きっと完全に酒飲みがどちらか勘違いされるに違いない。
「アウト……お前は俺を幸福で殺す気なんだな……」
「ほげー」
彼にとって、今の僕は溢れ出る感情を吐き出す為の、きっと“掃きだめ”役なのだろう。
まぁ、酒を呑みながらなら聞いてやらん事はない。なにせ、今のコイツは大変滑稽で、僕にとっても大変好ましい姿をしているからね!
「へぇ。アウトはいつも可愛いだろうに。どうしたんだい、急に」
「お前がアウトを可愛いなどと言うな。その酒、没収するぞ」
「めんどくさすぎるーー!」
褒めたのに!同意しただけなのに!
これを機に、僕は余計な事は言わず、相槌だけを打つ事に決めた。先程まで完全無視だったのに、アウトを褒めた途端これだ。この狭量さと独占欲の強さ、そして、完全に性欲で相手の事が見えなくなっている美しい男というのは、とてつもなく滑稽だ。
滑稽滑稽!
最高最高!
「そうだ。お前の言う通り、アウトは以前から可愛かった。それはもう、何度体を開いても、どんなに発情期で熱に浮かされても、まるで初めての生娘のような反応を見せてくるものだからたまらない。じらして、じらして……泣くまで、いや、泣いても……俺はアウトの目だけを見て、その様子をつぶさに観察したいし、し続けたい。ずっとそう思っていたし、実際そうしていた」
「……ソウダネ」
まぁ、僕はアウトと同期しているから、知らない訳ではない。
最初こそ「執着攻めのお手本きたー!いえーい!」なんて喜んでいたけれど、最近は二人の発情期の際は、同期を一旦切る事にしている。
だって!だってね!
——-うぃず、うぃず。もうやだ。もう、おねがいします。
——-ん?何をどうしたらいい?口で全部言うんだ。約束しただろう?口にせねば伝わらないと、なぁ?アウト。
ほんっとうにしつこいのだ!
最初は「言葉攻めもイイネー!」なんて見てたけど、なにせじらす時間が長すぎる!ウィズの観察欲の凄さは、最早超ド級の変態野郎に他ならないのだ!
自分もギンギンに欲が募っている癖に、一番ジらした時で、発情期間中の最初の四日間は挿入もせずに、快感を与えられないまま痙攣するアウトを、ずっと眺めて過ごしていた。
言葉攻めや執着攻めを通りこして、最早ただのド変態だ!
何回指を締め付けた、とか、乳首に触れて何分後に我慢できずに自分で触り始めた、とか。ともかくもって、そのデータ一体何に使うんだい!?ってくらい細かいアウトの変化の一つ一つを、実験もかねて心底愉悦に浸りながら行うのだから……もう、僕は同期を止めた。
アウトも若干のMっ気があるがせいで、与えられない苦痛の後の強烈な快感を覚えてしまったらしい。少し喜んで焦らされている節がある。生娘というより、僕から見れば手練れのMだ。完全にウィズの好み通りに、体を作り替えられてしまった。
あの真っ白で可愛い受けは、もうどこにも居ない!
「でも、最近のアウトはまた違った可愛さを発揮してくる……俺の子を孕みたいだなんて。まったく、たまらない。あんなに雄の……アルファの本能を刺激されては、さすがの俺も焦らせようもない!」
「……」
——-うぃずのあかちゃんが、ほしいっ!
そうなのだ。
最近、アウトの発情期がかなり頻繁に、そして不定期になった。そして、それは完全にあの日に全てが始まったと言っていい。
——-笑ったあぁっ!
アウトが、あの同僚の女性の赤ん坊を見た時からだ。あの時のアウトの中に巻き起こった衝撃はすさまじく、その衝撃波でマナの中の至る所に花が咲き乱れた程だった。
『わーーー!急にお花畑が出来たー!』
『なになに、何事!?』
『わーい!花びらまで降って来たよ!ふふっ、なんか楽しくなってきた!踊ろう!オブ!』
『えっ、ちょっ!待って!なんで誰もツッコまないの!?』
あの日の世界は、咲き乱れる花と、空から舞い散る花びらの雨に、皆、喜び踊り狂った。唯一、外から来たオブだけは終始戸惑ってはいたが、インに手を引かれ、踊っているうちに、もう考えるのを止めたらしい。
『……変な世界』
とは言っても、普段、ちょっとやそっとの事では、アウトは外界でのアレコレをマナの内部までは持ち込んだりはしない。
内は内、外は外。彼の出自がそうさせるのかもしれないが、アウトの割り切り方は尋常じゃないほどしっかりしている。だからこそ、自分の内側に、これほどまでに確立された世界を形成できるのだろうが。
そのアウトが、自身の世界を花畑でいっぱいにしたのだ。
そこからだ、アウトの発情期が非常に不定期になったのは。その変化に、僕はアウトの中に起こった強烈な変化をハッキリと、その中で感じ取った。
——うぃずの、あかちゃんが、ほしい。
雌の本能。
愛する男の子を孕みたいという欲望と、それに付随して現れる強い母性。それがアウトを内側から完全に作り変えてしまったのだ。だからこそ、母性が一気にアウトの中で強まると同時に発情期が起こる。
アウトは、心の底からウィズの子を孕みたがっているのだ。それなのに、この雄ときたら――。
「まったく、どこであんな煽り文句を覚えて来たんだ……お前、なにかアウトに変な本を与えたりしていないだろうな」
「……ボクハナニモシテナイヨ」
僕は棒読みでそう口にした後、手に持っていた酒に口を付けた。
この馬鹿な雄ときたら、アウトの「あかちゃんがほしい」を、完全に自分を煽る為の、雌の纏った夜伽の装飾語だと思っているのだから、滑稽極まりない!!
あのアウトが、そんな高等な言葉紡ぎを、果ては発情期に使えよう筈もないのに!少し考えれば分かる事じゃないか!幸福に頭から浸り過ぎて、完全に思考能力が低下している!
あはははー!
「っは。どうせお前の仕業なのだろうが……まぁいい。俺に孕ませろと迫る、あの時のアウトの表情……あぁっ、たまらない!同時に指も、ナカもいつも以上に凄いからな。あの色気……正直、そろそろ仕事を辞めさせて部屋に閉じ込めておかねば心配で仕事も手につかん。今頃、また発情期になってやしないか心配で、心配で……」
そこから、僕はウンウンと聞いている振りをしながら、アウトの同期を閉じたのと同様に、耳からの情報を完全に閉じた。
滑稽で面白いけれど、正直、超ドエロの小説を、同僚から読み聞かせられているようで具合が悪いったらない!やめておくれ!今の僕はそんな気分じゃないんだ!
「……ぁ」
そう、馬鹿で、間抜けで、滑稽で、愉快極まりない男の言葉を無視していると、僕は耳の奥にこだましたアウトの声を聞いた。
——-うぃずのあかちゃん、ほじーっ!あがじゃんほじーっ!まだ、おれはいんのかわりなのがよーーー!
ありゃりゃ。とうとう限界が来たみたいだ。
「今夜あたり、ちょっとやばいかもね」
さて!ならば特等席で僕は見守らせてもらおうか!
同期の準備はバッチリだよ!