7:赤ちゃんがダメなら、俺は――

 

 

「んっ」

 

 熱い、熱い。物凄く――体が、熱い!

 

「っは!」

「アウト。起きたか?」

「あ、れ……うぃず?」

 

 どうしたの?と俺がベッドの上で身をよじろうとした時だった。

 

「あれれれ?」

 

 俺の両手首がガッシリと縛られていた。

けれど、見たところ俺の手首には何かで縛られているようには見えない。なのに、俺の両腕は頭の上で重なった状態、ピクリとも動かない。どうやら、ウィズがまたマナで魔法を使っているらしい。

 

「な、んで?」

「何でかって……アウト、笑わせるな」

 

 そのついでに、やっぱり服を着ているウィズに対し、俺は綺麗に裸に剥かれてしまっているのを、改めて認識した。

あれ、どうして俺、ウィズにこんな事をされているんだろう。どうしてウィズは俺に対してこんなに怖い顔をしているのだろう。

 

 なんで、俺がこんなに怒られるみたいなカタチになってしまっているんだろう!

 

「アウト、説明しろ」

「っは、ぁんっ!」

 

 説明しろ、と冷たい口調が耳元に響く。

熱い熱いと思っていたら、そうえば俺はまた発情期になってしまったのを思い出した。ウィズの低い声と、耳に掛かる生暖かい息にすら、体がピクンと反応する。

そう、そうだ。

俺は昼間、ウィズが赤ちゃんを作ってくれないのは、俺が未だに“イン”の代わりだからなんだと思って――

 

そこから記憶が曖昧だ。

 午後の仕事はいつも通りこなした筈だ。しかし、どう思い出そうとしても、俺の記憶の糸は熱い怒りに塗れてしまい、上手く手元に手繰り寄せる事ができない。

 

——-私は子供が欲しいって言ってるのに!口では可愛い可愛いなんて言っておいて、あんなのきっと全部ウソ!

 

 あの悲痛な女の人の叫びと、俺の心が完全に重なりあって、もう終業後は一目散に俺は駆けだしたのだ。きっとその途中だ。俺が発情期に入ったのは。最近、もうずっとずっと発情期だ。

 

「っふ、っはぅ、っは」

「また、こんなにいやらしい体になって」

 

 ウィズの軽蔑するような冷たい視線が俺へと降り注ぐ。その目は余りにも冷たくて、本当だったら傷付いても良い筈なのに、この時の俺はそんなウィズの視線にすら反応してしまった。

 

「なぁ、アウト」

 

 体が熱くてダルイ。いつもみたいに元気に動けない。メモも出来ない。歌も歌えない。踊れない。酒も飲めない。発情期のオメガは周りを惑わして迷惑だ、なんて言われるけれど、俺からすれば一番辛いのは発情期になっている本人だ。

 

 オメガの、その雄を求める最優先の感情と本能から、なにやら快楽のために好きでなっていると思われがちだが、それは違う。正直、発情期なんて無い方が良い。けれど、発情期がなければ俺達オメガが妊娠しない。赤ちゃんが作れない。

 

 だから、ウィズと出会って発情期もオメガである自分にも、悪くないな、なんて思っていたのに――!!

 

 

「アウト、アウト、アウト……お前はっ!自分が一体何をしようとしたか覚えているのかっ!?このいやらしい体で……お前はっ!」

「っはっぁん!うぃず、っはう……ひゃっ、ぁっ!」

 

 ウィズの指が乱暴に俺の中に入り込んでくる。いつもみたいにゆっくり、様子を窺うようには入って来ない。乱暴だ。いくら、俺が発情期だといっても、こんな容赦なく中を開かれたら、痛い。痛いんだ!

 

「いだいっ、うぃずっ。いだいよぉっ。やめてぇっ!あっ、あっ!」

「お前は……俺に酷くされたくて、あんな事をしたんだろう?だからお前の望み通りにしてやっている。何か問題でもあるのか?」

 

 グニグニと、まだ最初にも関わらず三本の指がおれの中をうごめくのが分かる。痛い。気持ちいい。ウィズの親指が、俺の穴を広げるように入口を押し上げた。そのせいで、指がもっと、奥に入り込む。

 気持ちいけど、痛い。痛い、痛い。

 

 こわい。

 

「っひ。っひ、ぅっぁふ。いだい……いだっい。ごわい、こわい……こわぃぃっ」

「っくそ!アウト!何故お前が俺を怖がる!?怖いの想いをしたのは俺だっ!?お前は父親と似ている弟に抱かれに行こうとした、この俺が恋人として傍にいるのに!」

 

 ウィズがキュッと眉を寄せて俺の方を見てくる。確かにウィズの方が怖がっている顔をしている。その喉は生唾を飲み込む動作で、何度の上下している。泣きそうだ。ウィズが、泣きそう。

 

 なんで、なんで?

 痛いのも、苦しいのも、ちゃんと口で伝えたのに分かって貰えていないのも、全部俺なのに。

 

「もういいっ!お前は絶対に外には出さない!絶対にっ!こんなに頻繁に発情期になるような淫乱はもう、俺以外の人間とは絶対に合わせない!じゃないと……お前はっ」

——–すぐに、俺を捨てて他の男の所に行くんだろうっ!

 

 きゅううう。

 ウィズの不安気な目と、うっすらと目の中に浮かぶ水分の膜に、なんだかあの時からずっと聞こえていた赤ちゃんの笑い声がピタリと重なった気がした。

 

—–笑ったぁっ!

 あぁぁっ!かわいいっ!ウィズ、かわいいっ!

 

 その瞬間、俺の頭の中でパァンと何かが弾ける音がした。

 

「うぃず、うぃず。おいで、おいで」

「っは!?アウト、お前……手」

「かわいい、かわいい……!うぃず、かわいいねぇ」

 

 俺はいつの間にか自由になっていた手首に、それまで触れる事の出来なかったウィズの両頬にそっと手を添えた。そして、そのままウィズの体を俺の上へと導くと、ちゅちゅっとウィズの顔中に口付けを落とす。

 

「こんな、かわいい、うぃずの、あかちゃんな、ら、せかいいち、かわいいのにねぇ。うぃずは、いんが、まだすきだから、おれにあかちゃん、つくって、くれないんだ」

「っ!?ちょっと待て!アウト、何を言って……!」

 

 ウィズが俺の口付けの合間に、何かを言おうとしているが、もう今は目の前の恋人が可愛くて可愛くて、なんだかとても凄い事を考えてしまった。

 

「んっ、んっ、はぁぅ。かわいい、うぃず」

「おい、ちょっ、アウトっ!?」

「おねがい、うぃず。あそびで、うわきあいて……いんの、かわりでもいいから。ひとつ、おねがい、きいてぇ」

「なっ!?はっ!?おい、アウト。お前……なにを」

「うぃず、おれ、」

 

 ウィズを、産みたい。