8:可愛い、可愛い、俺の

 

 ボーっとする頭の片隅で、最近まで物凄く強く湧き上がっていた「うぃずのあかちゃんほしい!」が最上級にまで変化して、そして進化した。

 ねぇ、赤ちゃんがダメなら、せめてウィズを産ませて。俺が一生懸命、かわいいかわいいって、お父さんがしてくれたみたいに育てるから。

 

「あう、と」

「……かわいいこ」

「っは、っは。っは…」

 

 ウィズが、苦しそうに肩で息をする。

ウィズ苦しそうな姿も可愛い。あぁ、ウィズは俺が産みたかった。ウィズのお母さん、いいなぁ。ウィズを産めて。替わってくれればいいのになぁ。なんて。

 

 俺はとんでもない事を、わりと本気で、いや、完全に本気で考えていた。

 

「あうと、おまえは……本当に」

「ん、ん。おいで、指も、うぃずのおっきいのも、ぜんぶ、おれが、よしよししてあげる」

「俺の子が……」

 

 俺は目を見開いて此方を見据えるウィズの目に、これまでの情交では見た事のない色の感情を見た気がした。そこには、今までずっと居た大きな狼の雄が、クゥウンと鼻筋を甘えるように、俺にくっつけてくるみたいな、

 

 そんな可愛いわんちゃんみたいになったウィズが居た。

 

「ほら、ゆび。きもち?おれの、ナカ。どろどろしてるね?」

 

 俺はウィズの唇に軽い口付けを落とすと、体を起こし背中をベッドの壁にもたれさせた。いつもなら絶対に恥ずかしくてしないような、大きく足を開くような格好で、俺の中でジッと固まってしまったウィズの指と手を、肉壁でよしよしとするように動かした。

 

「うぃずはいっぱい、おれにゆびを、いれる、もんな。すき?ここにはいるの。ゆび、きもちい?」

「あうと、いや、おれは、」

「ん?」

 

 俺は言葉を詰まらせるウィズに、もう片方の手で頭をよしよししてあげた。そうだね。ウィズはお喋りが苦手だもんね。いいよ、いいよ。俺が言わなくても、ちゃんと分かってあげられるようにするからね。

 だって、お父さんは俺が言わなくても分かってくれた。俺も、早くウィズにそうなってあげたい。

 

「うぃずの、あかちゃんは、いんに、おねがいしようね。くやしいけど、いんならいいよ。おれは、うぃずをうむからね」

「あうと、ちがう。ちがう。おれは、べつに」

「っひぁっ!」

 

 突然、俺の中からウィズの指が全部抜けた。ポッカリ開いた穴が、ヒクヒクと寂しそうにうごめく。あぁ、中からたくさん俺の汚いヌルヌルが漏れてくる。

 

もう、いやなおかあさんだなぁ、おれは。

 

「あうと、すまなかった。お前は……本当に、俺の子を……産みたいと、思ってくれていたんだな」

「ん」

 

 俺はぼんやりする頭で小さく頷くと、ヘタリと眉を寄せて此方を見るウィズに、俺はチュッと音を立てて、その眉間に口付けをした。かわいそうに。こんな苦しそうな顔をして。

 

俺はウィズのお母さんになりたいから、ウィズを苦しい事から全部守ってあげよう。

 

「あかちゃん、ほしかったけど……おれ、いんじゃないから」

 

 口にしながら、胸の奥がスッと冷え込むのを感じた。ほんとは、インじゃなくて、俺と作って欲しかったけど。

 そう、寂しいのに蓋をしながら、ウィズの頭へのよしよしを続ける。すると、やっぱりウィズの苦しそうな表情は更に濃くなった。濃くなって、いやいやと首を横に振りながら、ベッドの上のウィズにしては、驚くほど感情を露わにした声で叫んだ。

 

「ちがうちがうちがう!ちがうっ!なぜ、ここでインが出てくる!俺があいしてるのはお前だ!アウト!」

「でも、うぃず。ぜったいに、あかちゃん作ろうとしない。それは、おれが、いんの、かわ」

「だれがいった!?おれがいったか!?頼むから!やくそくをやぶらないでくれっ!勝手に俺のきもちを、きめつけて……知らない場所で、傷つかないでくれ。おれもわるかった、わるかったから……そんな事をいうなっ!」

 

 あららら。

 ウィズ。泣いちゃった。ポロポロと。綺麗なウィズの頬に、キラキラの涙が流れていく。なんて綺麗で可愛い子なんだろう。はぁっ、産みたい。ウィズを、俺が産みたい。

 

「子供は……作りたくないのは……確かだ。でも、それはお前に本気じゃないからだとか、遊びだからとか……ましてやお前が“イン”の代わりなんて事は、あり得ない。アウト、お前は誰にも代われない……頼むから、それだけは分かってくれ」

 

 愛してる、あいしてるんだ。

 と、悪夢にうなされる小さな子供のように言うもんだから、俺は嬉しくなって「ん」と、ウィズと俯く頭を両手で抱きしめた。うれしい。ウィズは、やっぱり俺の事を愛してるんだ!俺だけを、愛してる!

 

 そう思った瞬間、昼間のプラスのあっけらかんとした声が、耳の奥に響いた。

 

——-でも、オスは好きなメスを孕ませたい生き物だし。それをしないって物凄くヘンだ。

 

「うぃず、でも。おすは、好きなめすをハラませたいって、きいた」

「……そうじゃない雄もいる」

「そうなの?」

「そうだ」

 

 憮然とした様子で頷くウィズに、俺はチラと腕の隙間から見えたウィズの耳が、真っ赤に染まっているのを見た。

 ウィズが、照れてる。

 

 かわい。

「っ!」

 

 俺がウィズの真っ赤な耳朶にハムと甘噛みした。かわいいかわいい。もう、俺、ウィズの全部が可愛く見えて仕方がない。

 ちゅっ、ちゅっ。ぺろ。ぺろ。

 

「っはふ」

「っぁぅと」

 

 そう言えば、俺の舌さばきは上手だってプラスからもお父さんからも褒められた。だから、俺はうんとウィズが気持ちよくなるように、舌を這わせる。苦しそうで、でも心底気持ちよさそうなウィズの唸り声が、もっと俺を頑張らせる。

 

 あとで、ズボンの中でずっと苦しそうにしているウィズの大事な雄にも、ごほうびをあげないと。今日はいっぱいいっぱい、俺がよしよしする。手でも、口でも、ナカでも。好きなのどうぞって。

 

「じゃあ、うぃずは、なんで?」

—–なんで、ウィズは赤ちゃんが欲しくないの?

 

 ちゅうちゅうと、ウィズの耳朶にすいついて。ウィズの髪の毛に指を通しながら尋ねる。どんな理由だって、俺は全部受け入れられる。だって俺はウィズ産みなおしたいくらい、愛してるんだから。

 

「……わらわないと、ちかって、くれ」

「ん」

 

 ウィズは俺に耳を食まれながら、その指は俺のまっ平らな胸にちょんとくっつく乳首へと向けられた。コロコロと、まるで子供が手遊びをするように触れられる。やっぱり、ウィズは俺の赤ちゃんだから、おっぱいが好きなんだ。

 

 かわいい、かわいい。

 

「ぁんっ。っふぁ」

「……なんと言ったらいいのか」

「んっ?」

 

 摘まれたり、指先で弾かれたり。ともかく、ウィズは器用に、でも楽しそうに、俺の突起に触れてくれた。けれど、その口調はやはりどこか恥ずかしそうで。どうやら、この俺の乳首に触れるウィズの手は、“照れ隠し”なんだとハッキリと分かった。

 

「子供なんか、できたら……お前は、こどもを……一番に、するだろう。それが、おれは、嫌なんだ」

「うぃず、それって」

「……俺は、まだこの世に居もしない存在にすら……しっと、を。している、ということだ」