次の日、プラスはちょっとだけ眠たかったのです。なにせ、昨日からプラスは一睡もしていなかったのですから!
『ヨルヨルヨール……ふぁあっ』
『お前……』
プラスが、いつものように、また真夜中に教会を抜け出してあの場所で歌を歌っている時です。マヨナカが、昨日と同じようにプラスの前に――。
いや、まってくれ!その前に、その時の俺の歌は、ちっとも素晴らしくなかった事を説明させてくれ!
なにせ、前日は一睡もせずに仕事だったんだ。昼寝しようにも、新しい子供達がたくさんやって来てくれて、あまりにも嬉しかったから寝るのを忘れていた。
だから、普段の俺なら、歌の途中で欠伸なんて……
「プラス。その話はいい。続きだ」
「いや、聞いてくれ!ベスト!普段は、ヨルの歌の途中で欠伸なんてしないんだ!たまたまだったんだ!」
「あぁ、あぁ。わかった。それは十分に理解した。で?続きはどうした。それで、その“マヨナカ”は、何故わざわざお前に二度も会いに来た?あ?どの口で何をどうほざいた?お前はそれをどう思った?」
「ヨルはマヨナカの事を気に入ったのか?」
「誰が気に入るか。見つけたら火あぶりにしてやる」
「あははっ!丸焼きなんて、まったく!機嫌が悪いと思ったら、ベストはお腹が空いていたんだな!アウト!ベストに何か食べ物を……」
「いいから、早く続きを話せ。否は許さん。あと語り口調を前に戻せ。童話調は集中できん」
「まったくベストは注文が多いなぁ。えーっと……どこまで話した?」
「その、マヨナカとやらが再びお前に会いに来たことろからだ」
「あっ。そうそう!マヨナカが来たんだ!そして、マヨナカは言った――」
———
——
――今日も相手をしてやる。
『来い』
ニセモノはそう言うと、またヨルとは違う利き手で俺の腕を掴んだ。俺としては、この男の価値はヨルとソックリである“顔”にしかない。だから、俺は後ろ手に掴まれて先を歩くニセモノに、少しばかり不満が募った。
『なぁ』
『なんだ。金はやる。余計な事は言うな』
『……ふうん』
俺が声をかけても、ニセモノは一切足を止めようとしない。こっちを見ようともしない。だから、俺は無理やりニセモノの手を振りほどくと、パタパタと男の前へと立ちはだかった。
『おい、何か文句でもあるのか。お前のような貧乏人の浮浪者、俺が相手をしに来てやっただけ有難く思え』
ふむ、やはりヨルよりも言葉数が多い。けれど、眉間に寄せる皺とその表情は、まるきりヨルだ。あぁ、ヨル。会いたかった。久しぶり。
『邪魔だ。そこをどけ』
『どうせ昨日の売春宿の借り床に行くんだろ?』
『衛生面で不本意な点も多いが仕方がない。お前のようなどこの馬の骨とも言えん輩は、俺の屋敷に連れ帰る訳にもいかんからな』
いちいちうるさい男だな。本当に。
俺は売春宿の場所は頭の中に入っている。そう、道を前を向いて歩かずとも、後ろ向きで歩いたって到着する事は可能なのだ!
『おい、どういうつもりだ』
『こうやって、お前の顔を見ながら歩く』
『は?』
『早く行こう。夜も無限って訳じゃないんだ』
俺は後ろ手に両手を組みながら、此方を怪訝そうな目で見つめるニセモノの姿に目を細めた。月明かりに照らされるその姿は、黙ってさえいればヨルのそのもの。
『……やはり、来るべきでなかったな。頭がおかしすぎる』
『じゃあ止めるか?』
『……』
『気に入ったんだろ?俺の体が』
『調子に乗るな。こんな田舎の果てにある売春宿で、毎度相手を変えていたら病気を移されるかもしれないから、たまたま同じ相手を選んでいるに過ぎん』
あぁ、グチグチと御託の多い男だ。
『うるさい。もうそれ以上喋るな』
『なっ!』
『俺達は互いの体が目的だ。俺はお前の事を詮索しない。お前に迷惑をかけたりしない。だから、お前ももう俺と居る時は無駄口を叩くな』
喋ると、せっかくのヨルの顔が台無しだ。
俺がニセモノの顔を見つめながら言うと、その瞬間、ニセモノが大声で笑った。
『あはははっ!確かにその通りだ。此方にいる間に、体の良い吐け口を探したかっただけだからな……下手に取り入ってこようともせず、何も聞いてこない。黙って体だけを差し出す。多少頭がおかしくとも……それには目を瞑ってやろう』
ヨルじゃ考えられないような笑い方をして、ヨルよりもハキハキと話す。あぁぁぁぁもう!本当にガッカリだ、がっかり!こんなの、ヨルじゃない。顔はヨルだけど、全然ヨルじゃなくて……もう、コイツは――。
『――マヨナカ。お前、本当にお前はうるさいな』
『……真夜中?』
『お前の名を、便宜的にそう呼ぶ事にした。今がマヨナカだから』
『……捻りもクソもないヤツだな。まぁ、いい。名前を教えろと言わんところも、俺としては都合が良いからな』
フンと鼻を鳴らして言うマヨナカに、俺はやっぱり心底ゲンナリした。その顔はやめろ、ヨルはそんな頭の悪そうな表情と仕草はしない。
『ならば、お前は――』
『俺の事はスルーと呼べ。出来るだけ、静かに。そして“ス”に強めの音を乗せて、伸ばす時は抑揚を』
『……名前を呼ばせるのに、そこまでの指定をしてくる奴は初めてだ』
『いいか?言ってみろ。す、るーだ。はい』
『……うっとうしい。さっさと行くぞ』
あぁ、せっかく俺がヨルの正しい“スルー”の発音を教えてやっているのに。聞きやしない。ヨルなら、俺のどんな話にも……興味深く、静かに、頷いて聞いてくれたのに。
——–お前は、素晴らしい。
ヨル。お前はどうして会いに来てくれなかったんだ?俺が約束破りだったからか?それとも、もう首都に戻ったら、俺の事なんて忘れてしまったか?
『……お前、なんて顔をするんだ』
俺がヨルを思い出しながら、マヨナカの顔を見つめていると、マヨナカが酷く戸惑ったような顔で此方を見ていた。あ、この顔はとても“ヨル”だ。
『なぁ、マヨナカ』
『なんだ』
『金なんかいらんから、名前だけ。呼んでくれないか』
余計な事を言わないでいい。もう“スルー”と、俺の名だけ呼んでくれれば、それで。
『……貧乏人が、俺に指図をするな』
『ケチだな』
『無駄な事はしない主義なんでな』
マヨナカはヨルソックリな顔でそう言うと、スルリと俺の横を通り過ぎて行った。『さっさと済ませるぞ』と、とても足早だ。
『……はぁっ』
俺はすぐにマヨナカの前へと駆けると、マヨナカの顔をチラチラと見ながら、またしても売春宿の借り寝床を使って、非常に濃い種を出しあった。
呆れた事に、昨日出したばかりだというのに、マヨナカの種床は、まるで収穫直後のレイゾンの倉庫みたいにパンパンだったんだ。
『っひぅ!』
『おいっ、この程度でヘバるなっ!昨日のようにもっと鳴けっ!』
『っも、む。り……っひ』
『いやらしい体だ……乳首もこんなに立たせて。この淫乱』
『っはぅ。きもち、おっぱい、しゅごっ。もっと、いたく、シて』
『はぁぁぁっ、たまんねぇな』
淫乱。たまんねぇな。
ヨルはそんな下品な言葉は使わない。がっかりだ、本当にガッカリなのに――。
『かお、かおを……』
『なんだ?』
『はぁぁっ、かお。すき』
『……っは。ここまでハッキリ顔を褒められたのは、初めて……だっ』
『ぁあっん!』
胸の突起を噛み疲れ、俺の雄は乱暴にこすられる。
出しても出しても、突かれても突かれても。
マヨナカの玉は、パンパンだった。その種を、俺の中に大量に注ぎ込まれた。
正直、前日に余り眠っていなかった俺は二度目は途中で気を失ってしまった程だ。
どうやら、マヨナカは本当に俺の体が気に入ったようで、来る日も来る日も、毎日毎日俺のところへやって来た。
さすがの俺も、ちょっとウンザリする日もあったけれど、まぁヨルの顔に会えるならば、どうって事なかった。しかしまぁ、コイツは一緒に種を出す度に、どんどんどんどんうるさくなっていったんだ!
『俺は、皇国出身でなっ、今は新規事業の、立ち上げてっ。此処に居るっ』
『もっ、うるさっ、ぁぁん!』
『お前、ここまで俺に抱かれて、俺が帰ったら一体どうなるんだろうな?』
『べつに、っなにも……』
『お前がどうしてもって言うんなら、一緒に連帰ってやらん事もない』
ともかく何も聞くなと自分で言っておきながら、寝床の中では饒舌だった。でも、これは少しだけヨルもそういう所があったから、俺はおおむね寝床でのお喋りは許してやった。
『……なぁ、どうしたい?お前みたいな貧乏人には、降って沸いた幸運だろう?』
『あっ、あっ!ひっ。しりを、ひらくなぁっ』
『お前の穴が、いくらハメても締まり過ぎるのが悪い』
『っはぁ、っはぁ、も……だまれ』
『黙れだと?おい、誰にむかっ……ん』
だから、あんまりお喋りが過ぎる時は、ひとさし指でマヨナカの唇をツンツンと突っついてやると、途端に静かになったな。でも、何故だろうな。それをすると、元々太いマヨナカの雄が更に膨らむんだ。
『っく』
『っひ、ん……―――っっ!』
膨らんで、その後はもう俺の腰をガシリと掴んで腰を振る。何に興奮したのかは分からない。けれど、息を荒くして、ギラついた目で腰を振るマヨナカは、本当にヨルそのものだったから。
俺は何かにつけて、マヨナカの唇をツンツンってした。マヨナカはヨルよりも随分表情の分かりやすい奴だったからな。ツンツンが好きなのは本当によく分かった。
なぁ、ベスト?コレの何が良かったんだろうな?