幕間4:クリアデータ7 0:50

 

 

「えぇぇっ!?ウソっ!七週目にして、急に戦闘システムが変わるって何!?エグッ!」

 

 

 上白垣 栞は唸っていた。

 唸りながら、けれどその顔に浮かべるのは満面の笑みという、なんともちぐはぐな状態に陥っていた。

 

「いやいや、六周目までは、従来通りのエンカウント式のアクションバトルで?七周目に入った途端、マップのターン性バトルに変えてくるとか……」

 

 栞はコントローラーを握る手に力を込めると、必死に自分を落ち着かせようと深呼吸をした。

 

「……ほんと。こんなの、もう完全に別ゲーよ。育成モードも全然今までと違うし。作り込みが今までのシリーズの比じゃないんですけどーー!?」

 

 しかし、深呼吸の効果は虚しく、栞はやはり抑え切れぬ興奮に目頭を押さえて叫んだ。

 そう、このセブンスナイト4という作品を、栞は完全に見誤っていた。

 

「もうー!こっちは明日から一週間の有給明けて仕事なんですけどぉ!またイチから新しい攻略法を考えなきゃじゃない!ハイ、最高!」

 

そもそも、周回プレイを前提とした恋愛シミュレーションの場合、二周目以降の“繰り返し”になる部分がどうしてもダレてしまう傾向にある。

しかし、セブンスナイトシリーズはその辺りもいつも巧妙に作り込んであるせいか、一度聞いた会話文や、戦闘や育成における周回プレイのマンネリ化は少ないのだ。

 

「クリア後の紹介動画まで作る暇あるかなぁっ!まぁ……ぜってー作ってやるけど!」

 

そう、この辺のゲーム性の妙については、栞は過去何度も自身のブログやレビュー動画で、その語彙をフル活用し語っているところである。

 

いくら語っても語り足りない。

恋愛ゲームにも関わらず、栞は一度セブンスナイトの戦闘システムの良さだけで三十分の動画を作り上げてしまった事がある程だ。

 

「今回のスタッフの【世代交代】……それを、ネットで叩いた奴らを全員、クオリティで殴り返しにかかってるわねぇ。【世代交代】した俺達は、今までの比じゃねぇぞって気合いが凄すぎるっ!」

 

 それに輪をかけて今回の最終ルート。

セーブデータの七つめに当たる【窓際の恋:イーサの章】は完全に、これまでのシリーズを知っている玄人プレイヤー達こそ、その脳内に形作られた常識のせいで、足元をすくわれる形となってしまった。

 

「ほんっと!やってくれるじゃないっ!」

 

 そして、栞も足元をすくわれた内の一人である。いや、むしろ先陣を切ってすくわれたと言っても過言ではないだろう。

 

「っていうか。クリプラントの設定って、こんなに深かったんだ……」

 

栞は、コントローラーを持たない方の手で「ふむ」と顎に手を当てた。

 

「完全に外界とは交流しない閉ざされた国ってのはシリーズ通して知ってたけど……文化や知識の流出を防ぐために、口語と文語を別言語にしてるって……閉ざし方が、歴史上の日本の鎖国とはレベルが違うわね」

 

 栞は、ブツブツと脳内の設定を整理するように呟く。

そう。栞のレビュー動画には、考察動画シリーズもあったりする。実は栞のチャンネルではその考察動画も、不動の人気シリーズで、考察好きのプレイヤー達からも高評価を受けていた。

 

「クリプラントにある……元、人間国側の領土。ゲットー。植民地として数百年もの間、エルフ達の支配下にあるにも関わらず、人間という種族でクリプラントの文語を知る事の出来る人間は、一部の特権階級の人間だけ、か。だからこそ、役人への賄賂が横行してるなんて……うーん!」

 

 しかし、当の栞に考察をしている自覚は余りない。

 

「コレ、もう完全に植民地から独自の治外法権作っちゃってるじゃない。面白いわ、この街。なんと言ってもBGMが好き!サントラ、いつ配信開始するのかしら」

 

 ともかく、栞はゲーム一本を余す所なく遊び尽くしたいといった気持ちの発露に過ぎないのだ。ただ、その結果が「この考察こそ真解釈なのでは!?」と、周囲から【神考察】と称され、勝手にシリーズタグを付けられるまでになってしまっていた。

 

当の本人にしてみれば、どうでも良い事らしいが。

 

「あーーっ!でも、どうしようっ!」

 

 栞は顎に添えていた手を、眉間へと移動させる。

今、栞は最初の岐路に立たされていた。

 

「ここでゲットーの有力者に賄賂として一千万ヴァイス支払わなきゃ、エルフへの戸籍帰化申請が出来ないから言語の習得が許されない……。言語習得が出来なきゃ、エルフのマナによる魔法習得のシステムが解放出来ないから、今後の戦闘がかなり不利になる。ただ……この序盤に一千万は……いくらクリアデータ有でもきついって!」

 

 今後のストーリー展開において、エルフ国の言語を理解せずに進むというのが、どれ程にまで縛りになるのか分からない。もしかすると、エンディングすら変わってしまう可能性も秘めている。

 

「別の方法……そう、例えば。誰かに習うとか、そういうのありそうじゃない?」

 

 栞はゲーム内の選択肢である、

 

▷【支払う】

 【支払わない】

 【ちょっと待って!】

 

の三つから【ちょっと待って!】を選択すると、一度、これまでのセブンスナイトシリーズにおける常識を一切脳内から消し去る事にした。

 

 なにせ、この【セブンスナイト4】という作品は、大々的に【世代交代】を謳って売り出された作品なのだ。最初の飯塚邦弘のナレーションといい、ともかく栞は常に度肝を抜かされ続けている。

 

過去の先入観に囚われていては、真エンドの道筋すら踏み誤るかもしれないのだ。

 

「こっからは、ちょっと別のゲームだと思ってやらせて貰うわよ……!制作スタッフの皆様の入魂に恥じぬプレイを致しますので」

 

 上白垣栞は、両手にコントローラーをガシリと握り締め直すと、言語の習得のスキル解放の為に、「急がば習え!」のゲーマー信条に基づき行動を開始する事にしたのであった。

 

 

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