89:サトシのストレス

 

 

 俺も、ビットみたいに自由になりたい。

 

 

「なぁ、役立たず!俺はオメェなんて欠片も好みじゃねーからよぉ、オメェの穴には興味ねぇんだ。だからさぁ、」

「……」

 

もう、休憩中のエルフ達の視線は、完全に俺へと向けられていた。お前の役割は“コレだ”とでも言うように。こうして、皆のイライラの捌け口の為に、馬鹿にされ、蔑まれる事が、ここでのお前の役割だ、と。

皆、その役割を俺に強いてくる。

あぁ、まったく。なんて、不自由な世界なんだ。

 

「面白れぇ事やれや!毎日毎日こっちは採掘作業で疲れてんだからさ。な?何か、俺らを笑わせてみせろよ?なぁ、なぁ、なぁ?」

「……ふぅーー」

 

 深く息を吐く。

 誰かに強いられる役割。こいつらは“退屈”なんだ。俺はコイツらの退屈を紛らわせる為の、玩具な訳だ。

 

「エーイチ言ってたなぁ。相手の求めるモノを見つけ出すのが“商い”だって……。そういう視点、なかったわ。どんな声が製作者の人達から求められてるとか、全然考えた事なかった。俺はもしかして、自分しか見てなかったのもな……そう、仲本聡志はぼんやりと思った」

「おい!何をブツブツ言ってやがる!気持ち悪ぃな!もしかして、もう寿命か?」

 

 また、その台詞かよ。ダル。それこそ一番面白くねぇわ。

 

「……でもさ、エーイチ。俺、お前みたいに色々知らないし、俺に出来る事なんて何もねぇんだよ。お前みたいに特別な事なんて、何も出来ないんだ」

 

——–そうかな?サトシ。僕がしている事って“トクベツ”?そうじゃないよね?誰にだって出来る事が、環境の変化によって“価値”になった事に“気付いた”だけ。

 

「……気付く、だけ」

 

 ふと、エーイチと目が合った。

 こんな状況なのに、エーイチは欠片も俺の事など心配していないようで、笑いながら軽く俺に手を振っている。他人事だと思って、完全に楽しんでいるようだ。

じゃあ、テザー先輩はどんな顔をしているのだろう。いや、こっちは見れない。申し訳無さ過ぎる。

 

 

俺に、“価値”はあるのか?

 

 

——–サトシ!ビットやってー!

——–サトシ!あもを喋らせろ!

 

「あ」

 

 俺は、その明るい二つの声に、大きく目を見開いた。あったかもしれない。俺がちょっとだけ他人よりも、得意なこと。

 そして、コイツらの“退屈”という欲求を満たす為に出来る“面白いこと”。

 

「おいっ!役立たずの癖に無視してんじゃねーぞ!芸でも何でもやって、少しは俺達を労ってみせろや!」

「いい加減にしろ!見苦しいぞ!」

「黙れ!テザー!じゃあ代わりにテメェがやれや!」

「なんだと?」

 

 不穏な空気が漂う。俺をバカにしている時に漂っていた緩い雰囲気が、一気にピリつく。

 

「これじゃ、おもしろくねぇな」

 

 エーイチ。

 これも、皆の“欲しいモノ”になるかな?

「どうぞ」って渡して、“価値”が付くかな?

お前みたいに、俺も喜んでもらえるかな?

 

——–さぁ、どうだろうね?やってみなくちゃ分からないな。

 

 エーイチの楽し気な視線が、そんな風に言っているように見えた。

 

 

「……ふぅーー」

 

 

 なぁ、キン?俺のアニメ、下手だっただろ?つまんなくなかった?

——-サトシの“あにめ”は、たのしいね!

 

 

 なぁ、イーサ?俺のするお話ってさ、知らない言葉もいっぱいあっただろ?それでも、楽しかったか?

——–サトシ!もっと、もっとお話をしろ!もっとだ!イーサはサトシのお話がもっと聴きたいぞ!

 

「……ありがと」

 

        〇

 

 

 

『面白れぇ事をしろだぁ?そう言う“フリ”が一番面白くねぇんだよ!?そろそろ気付けや!バァカ!』

 

「は?」

 

 俺の突然の言葉に、それまで俺をバカにしていたエルフの顔がポカンと呆けたような表情を浮かべる。その傍に居たテザー先輩の顔も同様だ。否、この二人だけではない。ここに居るエルフ達全員が、俺を見ている。

 

 俺の声を聴いている。

 

「おい……、テメェ。今何て言いやがった?役立たずの人間の分際で!」

 

 

『そう、その場に居た全員に、俺は言い放った。それまで、皆にバカにされ、いじめられ、良いように扱われてきた“これまでの俺”とは思えない程、それはハッキリと意思の宿った言葉だった』

 

 

「え?ちょっ、な。何言ってんだ?お前」

 

 あぁ、皆が俺の声を聴いている。

 そうだ、俺もずっとストレスが溜まっていたんだ!前はイーサの部屋の前で、好き勝手“お話会”が出来ていた。しかも、唯一の観客であるイーサは、そりゃあもう演者冥利に尽きる反応ばかりをしてくれるんだ。

 

 そりゃあ、楽しかった!毎日、毎日。俺は……イーサと二人で楽しかったのに。

 

 

『周囲が、突然叫び声を上げた俺に、驚いたような視線を向けてくるのが分かる。その視線が、俺には心地良くて仕方がなかった』

 

 

 それがどうだ!

 ここに来てからと言うもの、俺はエーイチの“お金の授業”を聞くばっかりで、殆ど喋ってないじゃないか。

喉の調子?そんなモン良いに決まってんだろ!?殆ど喋ってねぇし、負担もかけちゃいねぇんだから!

 

 あぁぁっ!クソッ!腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ!

 

 

『ムカツクんだよ!テメェら!そんな俺の叫び声と共に、そこから俺の全ての巻き返しが始まった!毎日いじめられるだけだった俺の人生が、ハッキリと動き出したのだ。それもこれも、全ては、“あの日”まで遡る――』

 

 

 クソが!どいつもこいつも俺のストレス発散の捌け口になれ!

 いつまで居なきゃいけないか分からないこんな場所で、俺のストレスを受け止めろ!

 

 さぁ、お前ら全員、

 

 

俺の声を聴け!

 

 

 俺が、お前らの“退屈”をぶっ壊してやる!

 

 

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