1

 

 

橘 庄司は、自身の発言を大いに後悔していた。

 

目の前に広がるのは、なんともラグジュアリーかつエレガントな部屋。サウナとジェットバスまで付いたそこは、リゾートホテルではない。

 

駅から程近い。そこは、ラブホテルだった。

 

「へぇ、良い部屋だな」

「……そうだな」

 

そして、そんな庄司の隣に立っているのは、山戸宮古。その人だ。彼は、橘庄司の恋人である。

シャツにジーンズと言う、余計な装飾の一切施されていない格好にも関わらず、宮古は服の外からも分かる程、雄の肉体美を余す事なくその身に内包していた。

 

「……えっと、宮古?ほんとにヤるの?」

「あぁ、ヤる」

「でも、ほら。まだ宮古……未成年だし」

「なぁ、庄司」

 

山戸宮古。年齢はまだ十八歳。高校三年生。まだ未成年だ。

対する庄司は、先日、記念すべき三十歳を迎えた。その年の差、十二歳。宮古より一回り以上上だ。

 

「な、なんだよ?」

 

庄司がチラと隣に立つ宮古へと視線を向ける。すると、そこには、静かだが、明らかに興奮を募らせた雄が居た。宮古は、少しだけ多めに肺に含んだ空気を強く吐き出しながら、庄司に言った。

 

「庄司?男に二言はないな?」

 

 あると言っても、どうせ許しちゃくれないんだろ。

 庄司は自身の腰にスルリと回された太い腕に、宮古の笑顔を見た時と同じような、キュンとしてしまう気持ちを止められなかった。

先程まで、戸惑っていたにも関わらず。どうやら、自分も内心期待してしまっていたらしい。

 

「……っはぁ」

 

 橘 庄司。三十歳。

 今日、庄司は恋人である山戸宮古に、美味しく“食われる”予定だ。

 

 

 札束の使い道

 

 

 どうしてそんな事になったのか。

 話は一週間前の体育祭まで遡る。

 

『体育祭で一位を取ったら、何でも好きなモノを食わせてやるからさ!』

 

 そう言った庄司に、それを言われた相手。山戸宮古は他の人間には絶対に見せる事のないような、満面の笑みで頷いた。

 そんな、自分にしか見せない宮古の笑顔に、庄司が思わずキュンとしてしまったのは言うまでもない。

 

 笑わないで欲しい。

 三十歳の男でも、キュンとはしてしまうものなのだ。

 

 そして、庄司の条件通り、宮古は出場競技の全てで一位を取ったし、大活躍を見せた。その華々しい結果を背に、宮古は満面の笑みで庄司の前に立っていた。そして言う。

 

『庄司、さっきの約束、覚えてるよな?』

 

 『もちろんだ』と庄司は勢いよく頷いた。

そんなに食いたいモノがあるなんて、さすがは男子高校生。成長期だな、と。そんな微笑ましい気持ちを抱きながら。

 

 だから、約束の当日。

どんな高いモノを要求されてもいいように、と庄司は宮古との約束の日、現金とカードを満タンの状態で会いに行った。

 

『こんだけありゃ十分だろ』

 

 宮古との待ち合わせ場所に立ちながら大量の一万円札の並んだ財布の中身に、庄司は苦笑した。

 今思えば、一回り以上も若い高校生に会いに行くのに、大枚をはたこうとしている自分は、まるでパパ活でもする、悪い大人のようだな、と。

そう苦笑したのは、あながち間違いではなかった。

 

 なにせ、本当に庄司は若い高校生と“ソウイウコト”をする為に、お金を使う羽目になってしまったのだから。