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 それから、俺とゴウキはあの公園のベンチに集まるようになった。

 そして毎日、二人でゴウキお勧めのエッチな動画を見るのだ。イヤホンを半分こして、小さな画面を二人で覗き込みながら。

 

≪っはぁん。ね。はやく、意地悪しないで、早くその大っきいの、いれてぇっ≫

 

 今日も今日とてハラムさんは、とてもエッチだ。

 それに、物凄く気持ち良さそう。

 

「はぁぁ。すごいなぁ、ハラムさん」

「あぁ、やべぇよな。この場面」

 

 俺達二人は、終始ハラムさんに目を奪われ続ける。

 そこに映るのは、ピンと腰だけ突き上げながら、両手でお尻をガバリと左右に広げるハラムさんの姿。スマホ画面に容赦なく映り込むハラムさんの艶のあるお尻に、俺は思わずため息が零らした。

 

「はぁっ、いいなぁっ。ハラムさんのお尻」

「あぁ、やべぇよな。この極上のケツマンコ。マジで最高峰」

「うんうん!俺も思う!」

 

 最近、毎日ハラムさんを見ているせいか、「俺もこんなお尻になれたらなぁ」って、よく思う。

 だから、風呂の時、俺は体のどの部分よりも丁寧に洗うようにしている。

 

「はぁっ、こんなケツに挿れてみてぇなぁ」

 

 隣でしみじみと頷くゴウキも、きっと俺と同じでハラムさんのお尻に憧れているようだ。俺はチラと横目に、ベンチに腰掛けるゴウキのお尻を見てみた。ちょっと、ゴウキのお尻は固そうだ。

 

「俺、やっぱりハラムさんが一番好きだ!」

「別格だもんなぁ、あの人」

「あ!でも、タチだと好きな人が何人か出来たよ」

「誰だよ」

 

 俺が足をブラブラさせながら言うと、ゴウキが勢いよく尋ねてきた。

 

「不義さんと、仇事さんと、あと……」

「お前、タチは誰でもいいんだな」

「誰でもは良くない!ハラムさんが小さいから、体の大きな人が良いんだ!自由を奪われてる感じが……イイなぁって思う」

「へぇ?」

「ほら!一昨日見せてもらったヤツでさ?不義さんがハラムさんを後ろから抱きしめて、ベッドに抑え込んでるのがあったじゃん!俺、アレ好きだなぁ」

「あぁ、あれか……お前、分かってんじゃねぇか」

 

 出た。ゴウキからの「分かってんじゃねぇか」。

 俺はゴウキからそう言われるのが好きだ。だって、それを言う時、ゴウキは必ず俺の頭を撫でてくれるから。

 

「ふへへ」

「ったく、ヘンな笑い方」

 

 今も撫でてくれている。嬉しい。

 

「じゃあさ!ゴウキはタチでは誰が好き?」

「……え?タチで?あんまそう言う目線で見た事ねぇからな」

「じゃあ、今度!俺がゴウキにタチの選び方を教えてやるな!」

「はぁ?なんだソレ」

 

 そうやって笑いながら俺の頭を撫でてくれるゴウキは、十四歳なのに物凄く大人っぽい。俺はゴウキより二歳も年上なのに、一緒に居ると何故か年下みたいな気分になってしまう。

 

 きっとAVの事を、色々教えてくれるからだ。だから、俺もゴウキにタチの事を教えて、少しは大人っぽくなりたい。

 

「つーかさ、あられ」

「なに?」

「お前も、コッチなの?」

「コッチって?」

「……ゲイなのかってこと」

 

 ゴウキが先程までとは違って、物凄く気まずそうな顔で尋ねてくる。しかも、全然目を合わせてくれない。

 撫でてくれていた手も、今じゃ両手を合わせて握り締めている。

 

「えっと、それは男の人が好きなのかって事?」

「そうだよ」

「うーん。あんまりちゃんと考えた事ないから分かんないけど、俺は多分女の子が好きだと思う」

「……」

「ゴウキは?」

「……俺、もう塾だから」

 

 ゴウキは自分が聞いて来たくせに、俺から目を逸らしたままスマホを鞄に仕舞った。耳に入っていたイヤホンもスルリと抜き取られる。

 

「ゴウキ?」

「じゃ」

 

 いつもなら「またな」って言ってくれるのに、その時のゴウキは「またな」って言ってくれなかった。そんなゴウキの後ろ姿が、なんだか凄く嫌で、俺はゴウキに向かって叫んだ。

 

「ゴウキー!また明日―!」

 

 ゴウキはいつもと同じで、こちらを振り返らない。でも、いつもと違って片手も上げてくれない。それが何となく嫌で、俺はもっと叫んだ。

 

「俺、女の人も好きだけど、ゴウキも好きだよー!また、明日―!」

 

 もう一度、最後に「また明日」をくっつける。だって、俺とゴウキを繋げる糸は、この約束しかない。

 

「ゴウキーーーー!」

「あぁぁっもう!分かったっつーの!」

 

 俺がもう一度名前を呼ぶと、ゴウキはいつもと違って此方を振り返ってくれた。少し顔が赤い気がするのは、夕日のせいだろうか。

 

 

「また、明日―!」

 

 

 俺がもう一度ダメ押しで叫ぶと、今度こそゴウキはいつものように片腕を上げて返事をしてくれた。

 それが嬉しくて、やっぱり俺はゴウキの背中が見えなくなるまで、その後ろ影を見送っていた。