167:戦争が、始まる

 

 

 

「この国は、もうマナが殆ど残されていない。……戦争などしようモノならひとたまりもないだろうな」

「ナンス鉱山だって……あと数回しか、“大いなる実り”が採掘出来ないのに」

 

 ソラナ姫の言葉に、俺はテザー先輩がナンス鉱山に入る前に教えてくれた事が頭を過った。

 

——–じゃあ、この採掘をしなかったら?

——–クリプラントの大気中のマナが希薄になり、魔法が使えなくなる。

 

 だとすると、ナンス鉱山で“大いなるマナの実り”が採掘できなくなったら、もう永遠にエルフ達から魔法は奪われてしまうと言う事か。

 それって、もしかしなくともヤバイんじゃないだろうか。

 

「今回の戦争は、あのクリプラント防衛戦線の時とはワケが違う。開戦した時点で、ウチの負けだ。もしかすると、エルフという種そのものが、この世から消えるかもしれんな」

「お兄様っ!なんて事を言うの!」

 

 二人の会話に耳を傾けながら、俺は静かに頭の奥から、“ある”記憶を掘り起こした。

 

『へぇ!面白そうじゃん!』

 

 それは、俺が唯一見る事の出来た【セブンスナイト4】の特報PV。

壮大なオーケストラ調のBGMに乗せられて流れてきたのは、人々が争いあう様子を描いた美しいビジュアルボードだった。

 

 だからこそ、最新作は、あの戦場を描いたPVからして「戦争」をテーマにした話になるのかと思っていたが。

 

「――どうやら、違うようだ。と、仲本聡志は静かに情報を整理した」

 

整理して、少しだけ分かってきた。

 どうして、この「イーサ」ルートが最後の、七人目の隠しキャラに選ばれたのか。それは、このゲームの「トゥルーエンド」が、イーサ側によってこそ成し得る事の出来る世界線だからだ。

 

 そう、今回のこのゲームの真実のエンディングの鍵は、

 

「戦争の回避、か」

 

勝利や敗北は、その立ち位置によって完全に見方が変わる。しかし、戦争を回避すれば、それは両者共に勝利も敗北もない。

プレイヤーが、イーサを助ける事によって起こりえる、真のエンディング。目指すべきラスト。

 

「そして仲本聡志は、確信した」

 

 ヒロインの存在しないこの世界では、この俺が……いや。この“仲本聡志”こそが、この世界の“プレイヤー”だ、と。

 

「お兄様……まだお父様の喪も明けきらないこの状況じゃ、幸か不幸か宮廷会議でのボンクラ共の発言も、いくらか勢いを抑える事が出来るわ」

「それに、どうせリーガラントは挙兵したからと言ってすぐに攻撃をしてこない。最初は“軍事演習”だなんだと理由を付けて国境沿いに兵を付けてくるだけだ」

 

 今までにない程の緊張と高揚が、俺の体に痺れのように居座っている。心臓が、うるさい。

 

「そして、うちが迂闊に手を出そうものなら即開戦ってワケね。軍事演習に対し、クリプラントから不当な攻撃を受けたとか何とか言って……面倒だわ」

「そして、会議は難航し、時は無為に過ぎる」

「そうこうしているうちに、領土に戦火が及ぶ」

 

 淡々と事実のみを吐露するような会話は、最早、兄と妹の会話では到底なかった。

 

「でも、お兄様!リーガラントを迎合し、追従するような姿勢は絶対にダメ!人間の属国になるなんてまっぴらよ!」

 

最初こそ「イーサお兄様!お話を聞いて!」なんて言って飛び込んできた妹のソラナ姫も、今や立派な為政者の一人だ。

 

「ソラナ」

「っ!な、によ?」

 

 そして、イーサは“王”だ。

その静かな声が、怒気の籠るソラナ姫を諫めるように響き渡る。

あぁ、まったく。なんだよ、この声。

 

「事実の列挙に対して感情を挟むな。議論が一気にボンクラ共と同じになる」

 

俺に抱き着いて「サトシ!」と笑ってくれるイーサは、ここには居ない。隣に居るのに、イーサが遠い。ずっと遠くに感じる。

 

「ソラナ、まずは目線を引いて見ろ。俺達には加味出来ていない情報が多すぎる」

「……加味出来ていない、情報?」

「そうだ。物事に能動的な変化が生じる時、そこには必ず理由があるモノだ」

「理由?」

 

 イーサの言葉に、ソラナ姫が首を傾げる。そんな妹の仕草に、イーサは小さく溜息を吐くと、ハッキリと言い放った。

 

 

「リーガラント側も、“何か”に焦っているという事だ」

 

 

 それと同時に金弥も遠くに感じた。

 

 

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