181:牢屋の中で

 

 

 

 目が覚めた。

 どうやら俺は、牢屋に入れられているようだ。

 

 

        〇

 

 

 

『サトシ、卵を全部同じカゴに入れちゃダメだよ?リスクは、いつだって出来る限り分散しなくちゃ』

 

 あぁ、エーイチの言う事を聞いておいて本当に良かった。やっぱり、エーイチはいつだって正しい。さすが、若造の俺に苦言を呈してくれるだけの事はある。

 

(いや、本当にエーイチって何歳なんだ?)

——–その情報は、一千万ヴァイスになります。

 

 うん、だから高過ぎるって。ソレは。

 既に声の出なくなってしまっている喉をさすりながら、俺は心底そう思った。

それにしても、声が出ないって事は、“あれから”随分と時間が経ってしまっているようだ。

 

「……」

 

 周囲を見渡す。

 真四角の、窓もない部屋。部屋の一面は格子になっており、見るからに牢屋という感じの部屋だ。ただ、凄く部屋は綺麗だし、格子も古臭い鉄ではなくツルリとしたセラミック製の素材で、いかにも最新っぽい牢屋だった。

 

 いや、最新っぽい牢屋って何だよ。ワケわかんねぇ。つーか、

 

(なんで俺、捕まってるんだ?エーイチはどこ行った?無事なのか?)

 

 声には出せないものの、わざと口をパクつかせて、声に出している風を装ってみた。ただ、やっぱり声が出ないのは落ち着かない。もったいないけど、やっぱりアレを使おう。

 

「……」

 

 俺は胸ポケットから小さな麻袋を取り出すと、中にある数個入った透明な飴玉を手に取った。

 半透明で光に空かすと綺麗なソレ。

 

『サトシ、これを持って行け。気を付けて行ってくるんだぞ?』

——-マナを固めたモノ、だと?

 

 キラリ光を反射するソレを見たと同時に、イーサとテザー先輩、二人の声が耳の奥に響いてくる。

 

(コレは一体何なんだよ)

 

 しかし、どんなに訝しがった所で、俺が声を出す方法はコレを舐めるより他ない。

 

「ん」

 

 口の中に飴玉を放り込む。

 やっぱり無味無臭だ。飴は口に入れるとすぐに溶けて、喉に引っかかりながらも綺麗さっぱり口の中から消えた。

 

「ここ、どこだよ。エーイチは大丈夫なのか?」

 

 再び、口に出してみる。

すると、思ったよりも心もとない気分になってしまった。声に出して改めて自分の耳で聞くと、一気に現実感が増す。だから、その不安を少しでも消す為、俺は付け加えておくことにした。

 

「そう、仲本聡志は周囲を見渡した。そして、考える。何故、こんな事になったのかを。そうする事で、現状を打破するきっかけが掴めるかもしれない。そう思ったのだ」

 

 久々のセルフナレーションだ。自分を俯瞰して見る為の、俺の処世術。

 

「っふう」

 

 せっかくだ、確かに意識が朦朧としてハッキリしていなかった事だし、ここは一旦セルフナレーションの通り、どうしてこんな事になったのか順を追って思い出してみるのもいいだろう。

 

「考えてる間に、何かイベントが起こるかもしれないし」

 

 そんなメタな事を考えてしまう自分は、やっぱりこの世界の人間ではないのだ。