最終章:酒は百毒の長

最終章:酒は百毒の長

356:忘れていても

『……イン』  そして、オブはと言えば、突然、インから与えられたその温もりに、先程までの不機嫌そうな表情を一気に収めると、その視線をインからスルリと逸らした。少しだけ、普段はその白い耳が朱に色付く。珍しい。  いつもは二人でもっと凄い事をし...
最終章:酒は百毒の長

355:誰かを探して

----- -------- ------------  何もかもを忘れたフリをする彼が、探したい人が居ると言った。 ------俺と一緒に、人を探してくれないか?  っは。そんなのおかしい。歪だ。デコボコだ。  全てを忘れて楽になろうとし...
最終章:酒は百毒の長

354:幕間

◇◆◇◆ 「落っこちろよ、スルー。お前が居ると、俺はもう辛いんだ」  俺は目を閉じた。腹の底にある更に深くなった崖の底。  そこで、俺は全ての過去を背負い、いつもいつも俺に嫌な言葉ばかりを投げかけてきた“スルー”の体を思い切り押してやった。...
最終章:酒は百毒の長

353:少し、寂しい

『うん、嬉しかった!俺って、お父さんの幸福の一部なんだなぁって。そう思ったら物凄く、嬉しくて、嬉しくて……』  人生というのは、いつだってそんなものだ。  自分を幸せに出来るのは自分だけ。でも、そんな中で、自分の存在が誰かの幸福の一部なのだ...
最終章:酒は百毒の長

352:幸福の一部

スルーは言った。  “幸福”が分からないと。でも、そんな筈はないのだ。  ヨルが好きな人を幸福にする方法を知らない訳がないように、スルーもまたそうなのだ。 -------しあわせはまあるかったんだ。この中に、嬉しいとか、大切とか、大好きがい...